渡邊 良朗 Yoshiro Watanabe
海洋生物資源部門 資源生態分野 教授
E-mail: ywatanab[at]aori.u-tokyo.ac.jp
Phone:04-7136-6260 FAX: 04-7136-6266
Address: Atmosphere and Ocean Research Institute, University of Tokyo
5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba, JAPAN, 277-8564

履 歴
1982年: 水産学博士(北海道大学)
1983年: 東北区水産研究所資源部 研究員
1990年: 東北区水産研究所資源部 研究室長
1991年: 科学技術庁長官賞受賞
1992年: 中央水産研究所生物生態部 研究室長
1995年: 東京大学海洋研究所資源生物部門 助教授
1999年: 東京大学海洋研究所資源生物部門 教授
2005年: 水産海洋学会宇田賞受賞
2010年: 東京大学大気海洋研究所資源生態分野 教授

これまでの研究
【職人的な技術】
修士課程で与えられたテーマは「サクラマスの白内障」。「ヒトの白内障でも原因やしくみがよくわからないのに、魚の白内障をひとりの学生がやっても、結果はたかがしれている」ことに気がついて、研究テーマを変更することした。修士論文が終わってから数ヶ月間、日本水産学会誌と魚類学雑誌に掲載されている論文を20年間ほど遡って通覧しつつ、博士研究のテーマを考えた。「仔稚魚の消化吸収機構」に決めて、研究を始めたのが博士課程1年の初夏の頃だった。 苦労したのは凍結切片による酵素組織化学。戦後まもなく導入されたドイツ製の凍結切片作成装置はいうことをきいてくれない。氷の中に埋め込んだ腸管組織をかき氷にしてしまうこと1ヶ月あまり。ある日、よく磨ぎ上げて冷却したミクロトームの刃とプラスチックの刃覆いとの間にスーッと1枚の切片が伸びた。さっそく酵素反応処理をすると茶褐色の沈殿が生じ、顕微鏡で見ると想定通り腸管上皮細胞の中に沈殿物が点在している。この瞬間、「これで学位はいただきだ」と思った。
仔魚の実験的処理にも難儀した。濡らした脱脂綿上に孵化後間もない仔魚を取り上げ、ガラス毛細管を通して酵素蛋白質を消化管内に注入した後、それが酵素活性を持ったまま腸上皮細胞に取り込まれて細胞内消化される過程を数日間追うのだが、処理した仔魚を水槽に戻してもなかなか生き延びてくれない。古い機械を用いた凍結切片の作成にしても、仔魚の実験的処理にしても、なんども失敗をくり返した後にうまくいくようになった。 研究技術のマニュアル化がどんどん進んで、今は「いつでも誰でも簡単に」使える技術が多くなった。しかし、ある手法を使いこなして、「いつでも誰でも」得られる水準を超えたデータの質を求める時、やはりその手法や機械を理解し使いこなす職人的な技術が必要だろう。

【広大な海とサンマ調査】
学振特別研究員の後、水産研究所研究員となって配属されたのは資源部、冬にサンマの仔稚魚調査に出ることになった。着岸している時にはびくともしないと思えた1300トンの照洋丸は、出航から半日たった頃から北西風に吹かれて大きく揺れだした。今から思えば1980年代前半の西部北太平洋は寒冷レジーム。発達したシベリア高気圧から強い北西風が吹きつける冬型の気圧配置が1週間近く持続するのがあたり前の年代だった。出航した日の夜から丸5日間シケササエ。初めて長期航海に出た私は寝台から起き上がれないまま、清水港へ入港した時には体重が5キロ減っていた。清水へ上陸後に食べたそばのうまさは格別だった。 30マイル間隔で口径1.3mの稚魚ネットを5分間曳網してサンマ仔稚魚の分布様式と密度を調べるという約1ヶ月間の航海であった。広大な海のほんの一部を切り取って、果たして海の姿が理解できるのだろうかというその時湧いた疑問は、今もって払拭できないでいる。

【定説を覆したマイワシ激減過程】
1993年の大晦日、LOTUS-123という計算ソフトを使ってマイワシの「産卵量」、「卵黄仔魚量」、「摂餌開始期終了後の仔魚量」を計算していた。マイワシ資源は、卓越した1980年級群の発生以来大豊漁を続けたが、1988年級群の加入失敗をきっかけとして急減を開始していた。仔稚魚期の生残率が極端に低くなって、1988年以降の当歳魚加入尾数が1987年以前の1/10~1/100に低下したのだ。 定説によれば、このような生残率低下の原因は摂餌開始期仔魚の大量死亡によるはずであった。しかし、生残率激変期を含む十数年間のデータについて、LOTUS-123は産卵量-卵黄仔魚量-摂餌開始期終了後の仔魚量の三者がいずれも正相関するという結果をはじき出した。「マイワシの加入失敗は、摂餌開始期の大量死亡という定説では説明できないぞ」と、胸がおどった。資源変動研究のセントラルドクマとも呼ぶべき「HjortのCritical Period仮説」は、マイワシ資源激減過程を説明できなかったのだ。この結果は1995年にカナダの雑誌に掲載されることになった。

【もっと知るための文献】
渡邊良朗 (2011). 自然変動する海洋生物資源の保全. 遺伝
渡邊良朗 (2010). 多獲性浮魚類の漁獲量変動. アクアネット 2010.12, 16-22.
Watanabe Y (2009). Recruitment variability of small pelagic fish populations in the Kuroshio-Oyashio transition region of the western North Pacific. Journal of Northwest Atlantic Fisheries Science 41, 197-204.
Watanabe Y (2007). Latitudinal variation in recruitment dynamics of small pelagic fishes in the western North Pacific. Journal of Sea Research 58, 46-58.
渡邊良朗 (2003). 海産魚類の資源量変動様式の南北差-北の大変動と南の安定-. 生物科学, 55(1), 22-30.
渡邊良朗 (2003). 気候変動が左右する増減サイクル. 日経サイエンス, 33(10), 45-49.

最近の研究業績

Watanabe Y, Suzuki T, Tsuno K(2013). Temperature determines growth rates of larval round herring Etrumeus teres in the Pacific coastal waters off southern Japan. Fisheries Science 79, in press.

Hayakawa J, Kawamura T, Ohashi Satoshi, Ohtsuchi N, Kurogi Hiroaki, Watanabe Y(2012). Predation by neogastropods on Turbo cornutus juveniles and other small gastropods inhabiting coralline algal turfs. Fisheries Science 78,309-325.

渡邊良朗(2012). 海の生産力に依存する水産業.Ship&Ocean Newsletter296,4-5

渡邊良朗(2012). イワシ-意外と知らないほんとの姿-.恒星社厚生閣,東京.pp111.

渡邊良朗(2012). ニシン・イワシ類.「最新水産ハンドブック」(島一雄ほか編集),講談社,東京.Pp.159-162

渡邊良朗 (2011). 自然変動する海洋生物資源の保全. 遺伝65,27-31. 

渡邊良朗 (2010). 多獲性浮魚類の漁獲量変動. アクアネット 2010.12, 16-22.

Kishida M, Kanaji Y, Xie S, Watanabe Y, Kawamura T, Masuda R, Yamashita Y (2010). Ecomorphological dimorphism of juvenile Trachurus japonicus in Wakasa Bay, Japan. Env Biol Fish 90, 301-315.

Kanaji Y, Kishida M, Watanabe Y, Kawamura T, Xie S, Yamashita Y, Sassa C, Tsukamoto Y (2010). Variations in otolith patterns, sizes and body morphometrics of jack mackerel Trachurus japonicus juveniles. J Fish Biol. 77, 1325-1342.

渡邊良朗 (2010). 個体数変動. 「魚類生態学の基礎」(塚本勝巳編). 厚生社恒星閣, 東京, 287-298.

勝川木綿・渡邊良朗(2010). 選択的漁獲による生活史の進化. 水産海洋研究 74, 1-6.

Takahashi M, Watanabe Y, Yatsu A, Nishida H (2009). Contrasting responses in larval and juvenile growth to a climate-ocean regime shift between anchovy and sardine. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 66, 972-982.

渡邊良朗 (2009). 変動する海の生物資源. 海と生命「海の生命観を求めて」(塚本勝巳編). 東海大学出版会, 東京.pp. 388-401.

Chimura M, Watanabe Y, Okouchi H, Shirafuji N, Kawamura T (2009). Hatch-period-dependent early growth and survival of Pacific herring Clupea pallasii in Miyako Bay, Japan. Journal of Fish Biology 74, 604-620.

Watanabe Y (2009). Recruitment variability of small pelagic fish populations in the Kuroshio-Oyashio transition region of the western North Pacific. Journal of Northwest Atlantic Fisheries Science 41, 197-204

Kanaji Y, Watanabe Y, Kawamura T, Xie S, Yamashita Y, Sassa C, Tsukamoto Y (2009). Multiple cohorts of juvenile jack mackerel Trachurus japonicus in waters along the Tsushima Warm Current. Fisheries Research 95, 139-145.

Watanabe Y, Dingsør DE, Tian Y, Tanaka I, Stenseth NC (2008). Determinants of mean length at age of spring spawning herring off the coast of Hokkaido. Marine Ecology Progress Series 366, 209-217.

Takahashi M, Nishida H, Yatsu A, Watanabe Y. (2008). Year-class strength and growth rates after metamorphosis of Japanese sardine Sardinops melanostictus in the western North Pacific Ocean during 1996-2003. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 65, 1425-1434.

Xie S and Watanabe Y (2007). Transport-determined early growth and development of jack mackerel Trachurus japonicus juveniles immigrating into Sagami Bay, Japan. Marine and Freshwater Res., 58, 1048-1055.

渡邊良朗・高橋素光 (2007). イワシ類の生態とレジーム・シフト. 「レジーム・シフト ―気候変動と生物資源管理―」(川崎健、谷口旭、花輪公雄、仁平章 編). 成山堂書店、東京、141-155.

渡邊良朗 (2007). マイワシ資源減少過程の2つの局面. 日水誌 73, 754-757.

Shirafuji, N., Watanabe, Y., Takeda Y and Kawamura T (2007). Maturation and spawning of Spratelloides gracilis in the temperate waters around Cape Shionomisaki, Japan. Fisheries Science 73, 623-632.

Watanabe Y (2007). Latitudinal variation in recruitment dynamics of small pelagic fishes in the western North Pacific. Journal of Sea Research 58, 46-58.

Kayama S, Tanabe T, Ogura M, Okuhara M, Tanaka S, Watanabe Y (2007). Validation of daily ring formation in sagittal otoliths of late juvenile skipjack tuna Katsuwonus pelamis. Fisheries Science 73, 958-960.

Kawasaki M, Watanabe Y, Shirafuji N, Chimura M, Moku M, Funaki O, Saruwatari T and Kawamura T (2006). Larval Konosirus punctatus entering a brackish river mouse on the Pacific coast of central Japan. Journal of Fish Biology 68, 1362-1375.


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