大学院を目指すみなさんへ
海洋動物の世界
海洋動物は、陸上動物とは異なる世界を生きている。 数万〜数千万粒という夥しい産卵数とそれに見合った著しく高い初期死亡率、 数十〜数千キロメートルにおよぶ卵や幼生の輸送と分散、 性成熟の後も一生大きくなり続ける無限成長など、 海洋動物の際だった特徴はいずれも海水を媒体とする海の物理的性質に生物が適応した結果である。 稀薄な大気中の地表という平面上に生きる人間は、大きな比重と比熱を持つ水を媒体とする 海洋の三次元空間に生きる海洋動物の世界をなかなか理解できない。 海洋動物の世界はわからないことだらけなのだ。

海洋動物の生きざまにせまる
沿岸や外洋におけるフィールド観察によって動物の生態を認識し、 野外や室内の実験によってその認識を検証して、 海という空間とそこに生きる動物の姿を知る、 それが資源生態学分野の研究スタイルだ。 教科書に書いてあることを学んだこれまでの勉強を基礎として、 これからは教科書にまだ書いていないことを発見し、教科書を書きかえる。 大学院での研究の目的はそこにある。 海洋動物の未知の領域へ挑戦しようとする気迫ある君たちは、 大学院での研究で新しい世界を見出すだろう。
 資源生態の研究
海の生物資源は野生の動植物
ヒトが栄養源として利用する有機物は、すべて動植物によって生産される。陸上では、人間が完全に管理する動植物によって農業や畜産業が営まれ、野生の動植物が利用されることは森林資源を除くとほとんどない。対照的にわれわれが利用する海洋の動植物は、ほとんどが海洋の生物生産力によって産み出される。野生の動物や植物を対象とする漁業生産はもちろん、養殖業においても海藻類や二枚貝類の生産は天然の海の栄養塩循環や植物プランクトン生産に依存する。ブリやヒラメの給餌養殖業に用いられる飼料も海の生物を原料としている。

生態と自然変動のしくみをさぐる
野生の動植物である海洋生物資源は、海洋環境の変動に伴って大きく自然変動する。成体の成熟や産卵、生まれた幼生の成長や生残、産卵場から成育場への分散と回遊などは、いずれも海の環境に依存して年々変動する。そしてその変動の中には、したたかな海の 動物の生存戦略が隠されているのだ。資源として人間が利用する動物を主な研究対象として、野生動物の自然変動のしくみと生存戦略に迫る。資源生態分野はそのような研究を志す君たちを待っている。
 研究課題

資源生態分野では、海洋生物のうち特に資源として人間が利用する動物を主な研究対象として、自然変動のしくみと生存戦略を明らかにすることを目指しています。具体的な研究内容としては、小型浮魚類や貝類など漁獲対象として重要な資源生物の産卵生態や繁殖戦略、初期生態や加入量変動のしくみ、およびそれらの種間や海域間での相違とそのしくみなどです。また、それらを解明するためには、研究対象とする資源生物と密接な関係を持つ多くの生物の生態についても知る必要があります。漁獲対象として重要ではなくても、資源生物と密接な関係を持つ、あるいは生態系の中で重要な役割を果たしている生物種や生物群についても生態学的な研究を展開しています。

 研究手法は、フィールドにおける調査やそこで採集された試料の分析・解析、研究室やその他の陸上施設における飼育実験など、研究内容や対象生物、対象海域によって様々です。例えば、イワシ類など魚類の生態研究を行っているグループは、大型研究船に乗って採集調査を行います。内湾の調査では毎月数回の頻度で小船による観測・採集を行うこともあります。千葉県柏市という内陸に位置する私たちの研究所では、研究所内の施設で大規模な飼育実験等を行うことはできません。私たちは、全国各地の試験・研究機関との共同研究として飼育実験等も行っています。

 大学院生の研究テーマは、それぞれが指導教員と相談して決定しますが、基本的には上記の目的に関連するものです。研究目的や内容、それぞれの学生の特性に応じて、様々な手法で研究を行っています。

 近年の大学院生の研究テーマ

・ニシン卵仔魚サイズの系群間比較(修士論文)
・カタクチイワシの成長履歴と繁殖特性(修士論文)
・親潮系冷水域におけるカタクチイワシの初期生態(修士論文)
・夏季の北日本沖合域におけるカタクチイワシ当歳魚の生態(修士論文)
・カタクチイワシの繁殖生態の海域間比較(修士論文)
・相模湾におけるカタクチイワシ仔稚魚の成長と発達(修士論文)
・マイワシとウルメイワシ当歳魚の比較生態学的研究(修士論文)
・日本沿岸域に来遊するマアジの初期生態(修士論文)
・冬季の黒潮続流域におけるサンマ仔稚魚の分布と成長(修士論文)
・相模湾におけるカタクチイワシ仔魚の分布と移動(修士論文)
・東シナ海と日本海西部におけるマアジ仔稚魚の生態(修士論文)
・相模湾に来遊するマアジ稚魚の形態変異に関する研究(修士論文)
・土佐湾におけるウルメイワシの成長と成熟(修士論文)
・コノシロ仔稚魚の相模川河口域への進入と成長過程(修士論文)
・ニシン科魚類の初期生活史特性とその適応的意義(博士論文)
・西部太平洋におけるカツオ当歳魚の成長と回遊生態(博士論文)
・宮古湾におけるニシンの初期生態(修士論文・博士論文)
・串本周辺海域におけるキビナゴの生活史と資源加入機構(修士論文・博士論文)
・カタクチイワシ仔稚魚期における成長・発達様式と資源加入機構(修士/博士論文)
・日本海におけるキュウリエソの初期生活史(修士論文・博士論文)

 資源生態ゼミ(海洋資源生態学演習)
演習内容
・海産魚類や貝類資源の繁殖生態と初期生態に関する原著論文1編について、論文のねらい、研究方法や分析手法、データの解釈などを理解し、その妥当性を発表者が検討して解説する。その上で、論文内容に関して参加者全員による質疑と討論を行う。また、論文内容の要約をA4用紙1枚にまとめて解説の補助とし、参加者が要約文章を校閲することで、学術的な文章の書き方を学ぶ。
・演習履修学生および博士研究員が、それぞれの研究課題について、研究の成果と計画を報告し、全員で論議することで成果の解釈や研究計画の内容を深める。
ゼミ担当教員:
渡邊良朗  教 授  資源生態分野
河村知彦  教 授  生物資源再生分野
北川貴士  准教授  生物資源再生分野
岩田容子  講 師  資源生態分野
猿渡敏郎  助 教  資源生態分野
早川 淳  助 教  生物資源再生分野
日時・場所
木曜日 第2限(10:30〜12:10)
大気海洋研究所6階 セミナー室
〒277-8564 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
TEL 04-7136-66260 (内線 66260)

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